元技術系OLですけど、

万年筆やノートが好きです。マレーシアで留学生になりました。その模様はANOTHER BLOGにて。

食品業界の異物混入事故にクリーンルーム設備設計者として思う事

最近、食品業界で立て続けに事故が起こっているようなので、偶には技術系っぽい内容でも書いてみる。


ペヤングまるか食品に、冷凍食品の日清食品冷凍と立て続けにゴキブリが混入するという異物混入事故が起きた。

まるか食品の事故が起きたとき、誰もが工場内の衛生環境を指摘し、「大企業の衛生的な環境なら起こらなかった」と思ったはずだ。
だが、1ヶ月も待たない内にその大企業、日清食品グループでも起きてしまった。

衛生的な環境は確実に整っていたはず。

なのになぜ、日清食品冷凍でも起きたのか。

食品業界が恐れる異物混入

直接ユーザーの口に入るものを作る会社では、一般的に異物混入に対して非常に神経質である。
日本人は安全・安心を第一としている人が多く、異物でも混入しようものなら会社が傾いてしまうことだって十分に起こりうるからだ。

事件・事故から何十年たってもその会社の人間は「ああ、あの時の…」と未だに言われることがあり、一度無くした信頼を回復するのは至難の業である。

そのため、各食品企業はなんらかの形で異物混入対策を行っているのだ。

異物混入対策

異物を防ぐ為に、企業ができることは大きく分けて2つある。
ハード面での対策とソフト面での対策だ。

ハード面での対策

  • 汚染区域、準清浄区域、清浄区域とゾーニングを行う
  • 作業場をクリーンルーム化する
  • 工場を陽圧化する
  • 防虫・殺虫・補虫ランプを付ける

等々、この辺りが主な対策となる。
歩いて入ってくる虫の対策に、補虫目的の溝を掘っている工場もある。

まるか食品は出回っている写真を見ても、明らかにハード面において対策が不十分であった。
あの事故は本物か偽物かといった所は調査中だが、ゴキブリが入ってもおかしくないと思われて仕方のない環境だ。
しかし、ハード面を良くしたからといって異物混入は完全に防ぐことはできない。

ソフト面での対策

  • 入室時の手洗い・持込物の制限
  • 清掃の徹底
  • 製品の異物混入検査

上記の項目はほんの一例である。

食品業界にはHACCP、ISO22000、FSSC22000等といった食品の安全を守るための規格が存在し、これらを取得することで安全管理を徹底して行っているという証明になる。
これらは一度取ったら終わりではなく、定期的に監査が入り、相応しい運用を行っているか厳しいチェックを行っているのだ。

さて、このソフト面。
管理をしているのは人間というところに注目したい。
「今日の掃除はこんなもんでいいか」と思ってしまったり、扉やシャッターは開けっ放しにしてはいけないという規定があるにも関わらず「面倒だし少しだけ」と気を緩めてしまったり、そうこうしている間に容赦なく虫は入ってくるのである。

食品工場の作業場から虫は排除できないのか

個人的には無理だと思う。
やはり食品工場というのは虫にとっては恰好の餌場であるためだ。

工場を陽圧にして防ぐことが出来るのは、飛来するごくごく小さな虫。
補虫ランプで防げるのは、紫外線が好きな虫。(匂いにつられる虫には効果なし)
作業服についてしまった虫はエアシャワーや粘着シートでも、完全には取りきれないのが現状。
もちろんこれらを導入することで軽減はできるが、完全な防虫対策は存在しない。

クリーンルームに虫はいないというイメージかもしれないが、クリーンルームで管理しているのは空気中にある埃・ゴミの数、またそれに付随する菌なのだ。
つまり、入ってきてしまったものを殺虫する機能はない。

人間が出入りできる場所は、虫も自由に出入りできるのだ。

ゴキブリ混入2案件は防げたか

先述したようにいくら綺麗な環境があっても虫が入ってしまう可能性は、充分にある。

どちらの事故にも言えるのが、パッケージングしてしまう前の確認があれば防ぐことができたのではないか。
私は両方の工場内にはお邪魔したことがないが、画像処理で異物を検出するという装置が入っていれば消費者の手に届くことはなかったのでは。
一日に何千、何万の単位で生産がされている大工場では一つ一つ目視で確認をすることは難しいからね。

個人的な感想色々

食品工場は十数年前までは厳しい環境を求められていなかった。
クリーンルームを導入している工場なんてほとんどなかったのだ。

ここ最近工場見学を行うテレビ番組が多く放送されていたが、そこに出てくる工場はもれなくハード面がしっかりした衛生的な工場だった。
取材協力をする背景には「これだけ衛生管理に気を使いながら安全な製品を製造していますよ」というアピールができる、という理由がある。

そんな工場ばかりがテレビに出てくるので、一般の視聴者はすべての食品工場が管理された環境下にあると錯覚してしまうかもしれない。

だが、クリーン環境で食品を製造するという概念がまだなかった時代に建てられた工場では、ハード面の強化が現代の流れに追いついていないのが現状と感じている。
原料高、燃料高、売上減などで、これまでのように資金を調達できないため設備に投資する余裕がないのだ。

設備に投資しなければ、衛生面を懸念されて売上が増えにくい。
思い切って設備に投資しても、売り上げが上がる確約は無い。

そんなところで揺れている食品会社は少なくない。

まるか食品の設備担当者や現場の方々も、環境改善が必要だと感じていたと思うのだ。
それを行動に移せる力があるかどうかという点では、やはり大企業は強い。

まるか食品も強いブランドを持つ会社であるので、思い切って設備投資をして「これだけの対策をしたから今度は大丈夫」と自信を持って世に言う事ができるようになったら、また信頼を取り戻すことが出来るだろう。

そしてそこから大事なのはいかに現場の教育の徹底できるかということ。
一流の道具を揃えただけでは一流にはなれない。
そこからの差はどれだけソフト面を強化できるかということになってくる。

虫との戦いは永遠に続くが、最初から諦めず、一消費者としては最後まで戦ってもらいたいものだ。